1/1破 「なんで、人間でいたいの?」 目の前にいた、もう一人の私が私に問い掛けた。 「人間でいたいんじゃない。ひとは誰だって変身願望があるもの。今の弱い自分を棄てて別の何かになりたいわ」 冷たい風が肌を掠める。 とりたてて不快になるような事でもない筈だけれど、今は何故かそれが不快で仕方がない。 「なんで、人間でいたいの?」 目の前にいた、もう一人の私が私に問い掛けた。 「人間でいたいんじゃないわ。悪魔になるのが嫌なのよ」 ここは私の生まれた場所だ。 記憶ではなく、魂が呼応しているのが分かる。 「なんで、悪魔になるのが嫌なの?」 目の前にいた、もう一人の私が私に問い掛けた。 「私は私として生まれてきた。私は悪魔になる運命を背負っている訳じゃない。その証拠に、今、私には選択権が与えられているじゃない」 ここは心地がいい。 冷たい風に包まれていても、心は揺りかごの中の様に暖かかった。 「なんで、悪魔になるのが嫌なの?」 目の前にいた、もう一人の私が私に問い掛けた。 「私は人を殺したくはないの。悪魔になるって事は、何かを破壊して新しいものを作り出すって事でしょう?私は無から何かを作り出したい」 ここは心地がいい。 今を拒絶していても、どこかで私はこの世界を拒絶している。 今を寛容している。つまりこの世界を寛容している私がいる。 「なんで、人を傷つけたくないの?」 目の前にいた、もう一人の私が私に問い掛けた。 「気持ち悪いわ。人が傷つくのは痛い事よ、痛い事なの。だから嫌よ、人は苦痛を回避するものだもの」 そして、私は確かに、彼女と一つになりたがっている。 「私と一つになれば、そんな苦役からは解放されるわ 人の体や、概念や精神、貴女を束縛する全ての業から解放されて、快楽の海をその手で広げる事ができる なんで、貴女は私なのに、その事が分からないの?」 「…分かりはしないわ。分かりはしないのが私の運命なのよ、分かりはしないから、私は人間として生きるの。人間として生きるのが運命なのよ」 「それは誰の予定?」 「私の予定よ」 私は悪魔になりたくない。 でも、ほんの三秒、悪魔になる時間が必要だった。 赤く広がり続ける液体は、とめどなく溢れ 部屋を満たせば丘を伝って川になり、やがて海に流れ込む。 意識は溶け合う。 命の母と、意識は溶け合う。 意識は母に飲み込まれる。 神より等しい、命の母に。 人として残された悪魔の種は、薄らぎながら、確実に地面に染み込む。 やがて空へ還り やがて地へ還る 悪魔は消えない ほら、彼がまた口ずさんだ 悪魔は消えない ほら、 彼女がこの街にやってきた。 祝福の宴の用意をしよう 別れの贐の用意をしよう 悪魔は消えない だけれど今は 暫し、幕間 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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