1/3破 この市場の近くの宿に越して、数年が経つ。 この宿に入ったのは、家賃がとりわけ安かったからだった。 家賃が安いのは、治安の所為だ。 ここら一帯は治安が悪い。 表だけを見ると、毎日開かれている市場や人の活気でとうていそうは見えないだろう。 まぁ、市場を開いたり買い物をする分には、ここは申し分無い町だ。 だがしかし、ここに住んでみるとなると話はまた変わってくる。 先にも言った通り、立ち寄るには申し分ないこの町…だが、少し裏を覗いてみれば、治安が悪いことは一目瞭然だ。 外見は綺麗に磨かれていても、管理者・用途共に不明の廃墟群… 俺の借りた宿の様に、きちんと人が住んでいる建物の方が少ない気がする。 これだけの屋根があれば、…どこで紛争が起こってるかもしれぬこのご時世だ。 この国やその周辺は、ずっと前に平和条約を結んだ。 今の紛争に巻き込まれないように細々と手を打ったりもしているらしい。 だから、戦争やらなんやらは、今まで…それに、これからも、この国で起こったりはしないだろうが。 遥か遠方の国からは、どういうルートかは知らないが、居場所を求めて人が流れてくる。 もちろん、戦争関係の回避の為に鎖国もして、ある程度は規制をかけてあるらしいが…所詮は人の目。 厳しい監視…というやつも掻い潜って、この国に不法入国する輩は絶えずいる。 首都圏でなくとも、そうやってこの国にいる人間は必ずと言ってもいい程根絶やしにされる。 もし一年間をこの国で平穏に過ごしてみせたなら、その逃げ足と知略に称賛と敬意を示そうじゃないか。 …と、ここまで言っておいて恐縮なのだが、この国で…例外の町が一つだけある。 …まぁ、それが家賃の安いこの町なのだが…。 どういう訳か、この国の中でこの町だけ管理がやけに甘い。 腑に落ちない節もあるが、その理由はいくつか噂されている。 まず一つ、首都圏と表港に人手を回し過ぎているという事。 完璧、鉄壁、不陥落、そんな堅牢な守備も人手があって、頭を回して尽くし固めているからこそ出来る芸当である。 …つまり何が言いたいかというと、表に集中すれば裏に手が回らなくなる…という事だ。 この町には港があるが、それは表港から真反対の小さなもの。 だから、裏港とか呼ばれたりしている。 表港とは比べものにならない位に管理が手薄だ。 もっと言えば首都圏からも離れているし、歴史だとか、お上の人間関係だとか… 治安が悪い理由は、上げていけばキリがない。 それでもって、異常な迄の管理の甘さが出てくる訳で… 攻め入られるとしたら真っ先にここだろう。 と、まぁ、長くなってしまったが、ここまでくればお分かりだろう。 この町の裏路地廃墟群は不法入国者の巣窟だ。 戦争から免れて、住む場所や平和を求めた規律違反者諸君が人ごみに身を潜ませている。 他にも、孤児やら…犯罪者の根城があるなんて噂もある。 そんな町に活気があるというのも、また同様に管理が甘い為である。 今でこそ正式に開かれている市場だが、もともとは裏輸入だの密輸品だのの違法品を取り扱う市場が開かれていて賑わっていたものが起源だ。 それに便乗して店を出し始めた、果物市場や漁港組、合法武具の店なんかがいつしか裏市場をカモフラージュする為にメインと成り上がって今の市場が成立したという話だ。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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