チョコレート
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仕事場のオフィスでチョコを食べた。
仕事中だった。
きっかけは、俺にタバコをやめさせる目的でふざけて買って来てくれたシュガレットのチョコレートだった。
食べてる内に癖になってしまって、今では煙草よりも酷いくらいにチョコレート中毒だった。
部長に睨まれていたのも最初の内だけで、良く思っているかいないかは別として、今はもう俺がチョコレート無しでは集中して仕事が出来ない事を誰もが知っていた。

その日もチョコレートを食べていた。
ビターの板チョコだった。
残業が終わり、帰る頃にはすっかり食べおわっていた。
俺は席を立った。
そしてオフィスを出ようとするとあいつと目が合った。
ほんの一瞬だった。
俺は胸の何処かが焼け始めるのを感じた。
なんでそんな感覚に陥ったのかは分からなかった。
そして無性にチョコレートが食べたくなってきた。
そればっかりを頭で反芻しながらエレベーターに乗ろうとすると、後ろから誰かに押された。
振り替えるとあいつがいた。
今度は心臓が膨らむのを感じた。
何か言葉を放とうと口を開こうとした途端に、俺の唇は塞がれた。
エレベーターが閉まるのとほぼ同時だった。
そしてネクタイを引っ張られたまま、暫くあいつは俺を離してはくれなかった。

エレベーターの扉が再度開いて、あいつが何事も無かったかの様にエレベーターから出た時にはもう、あいつは嫌いでもなく、好きでもない、俺の特別な人になっていた。

そのまま惚っとしていたら、エレベーターの戸は閉じた。
俺は気が抜けて、エレベーターの中でストンと座り込んでしまった。
エレベーターが上がる。
俺のオフィスがある階で止まって戸が開くと、そこには部長がいた。
部長は俺を一瞥して、心配の声をかけるでもなく、黙ってエレベーターに乗り込み、そそくさと俺に背を向けた。

一階について、開いた戸を潜ろうとした部長は、立ち止まった。
俺がまだ惚っとしていた頭を動かして部長を見上げると、部長は振り向いて俺を見下ろした。
言葉は何もなかった。
いつも仏頂面の部長だったが、今日はまた一段とむすってしていた。
そして部長は右手でポケットからチョコレート取り出して、そのままそれを俺に差し出した。
チョコレートは今日俺が食べていた、仕事場で良く食べるビターの板チョコだった。

俺は少し迷ってから、チョコレートと一緒に部長の手を掴んだ。
掴んだ部長の手は予想以上に大きくて、ゴツゴツしていた。


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