砂浜
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私は、ずっと海を眺めていた。
砂浜の、波が満ちた時に足の爪に海水が浸るか浸らないかのギリギリの所に腰を下ろして、それは黄昏時だった。
太陽や月といった海の背景に興味がある訳ではなかった。
私は空ではなく、海だけを見ていたからだ。
強いて言うならば、海に反映された空の色を見ていたのかもしれない。

海は大きな変動が起こる訳でもなく、ただただ同じような満ち引きを繰り返すだけだった。
そして手に握る砂浜の砂は、私のイメージの中の砂漠の砂の様なものだった。
湿気がなく、掬った指の隙間から間もなく零れ落ちてしまう。
海はまるで人間の様だと思った。
私は海を見つめながら昔の友人の事を思い出していた。
彼はあてが有る訳でもなく、海に行った。
彼の誕生日の日の事だった。
何があったのか詳しくは知らなかったが、私は何故彼が海まで行ったのか理解できなかった。
わざわざお金を払ってまで意味もなく遠くへ行く意味が先ず分からなかった。

しかし、今私はこうして彼と同じように海に来ている。
理由も、来た場所も、時期も、時間も…全く彼とは違うものであろう。
だが海は同じだ。
それだけは間違いない。
そしてこの海が続く先、この大地が続く先に彼は生きている。
これも間違いない。
今なら彼の気持ちがわかる様な気がした。

砂が湿ってきた。
私はそのまま仰向けになった。
そして海に来て初めて空を仰いだ。
背中はひんやりとした。
波の満ち引きで砂が流されていくのを体で感じた。
このまま私の体も、その向こう側の世界へ連れていってほしかった。

海は私の足を飲み込む位に満ちていた。









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