赤い風船
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赤い風船が浮かんだ。

子の手から離れたのだ。
どこにでもあるような無印の赤い風船だった。
私はそれを淡々と眺め、見上げ続けた。
どこにでもある様な赤い風船は子が初めて貰ったものだった。
歳の所為か、首が疲れてきた。
そのため私は風船を最後まで見届けることなく視線を下ろした。
すると初めてもらった風船を手放してしまった張本人もまた、先程の私のように顔を上に向けて赤い風船を見上げていた。
初めて風船というものに触れて、初めて風船というものを手放してしまった子は何を考えて空を見上げているのだろう。
私が初めて風船を見たのは、当然小さい頃ではない。
だが、大人ながら、私は大変風船というものに興味を持った。

私は、飛んでゆく風船を生きている間に幾つとなく見てきた。
ショッピングモールの天井に溢れんばかりに張り付いている風船は次の日にはキレイになくなっている。
空を飛んでいる風船も、やがては消えて見えなくなってしまう。
そして私は風船の行く先を知らない。

子が顔を上げ、風船を眺め続けているのを見て、私も無性に顔を上げて風船を見たくなった。
重い首をあげると、赤い風船は小さな点の様に私の瞳に映った。
どんどん、どんどん、風に流されて視界から消えることなく小さくなりつづける赤い風船は、フッとした所で雲に飲み込まれた。

しばらく余韻の様なものを心に残し、私がやれやれと首を下げると、一方で子はまだ顔を上げ続けていた。
それが不思議で、私が子をぼんやりと見ていると、私に気付くでもなく、子は「あっ!」と声を漏らした。
私はそれに反応して顔を上げたが、空には歪な形をした雲が浮かぶばかりで何もありはしなかった。

「おじさんには見えた?」

声の主は風船を手放した子だった。
私がそれに気付いて視線をまた下ろすと、子は子供独特の輝きを瞳に宿しながら私に向いていた。
「何がだい?」
聞くと、子は何のためらいもなく、笑顔で私に言った。


「ふうせんの国!」


「…おじさんには見えなかったよ。」
私はそうとだけ答えて、また空を見上げた。
子に尋ねようとも思ったが、野暮な事はしないとしよう。
私も小さな頃に風船というものに出会っていたならば、"風船の国"とやらを見ることが出来たのだろうか?

私は心に新たな余韻を残して、重たい首を上げたまま暫く空の…歪な形をした雲を眺めていた。
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