Idiot
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何をしても満たされない毎日が疎ましかった。

常に何かをしていても、やりたいことは溢れて出てきて、やらなければならないことも溢れ出てくる。

かといって全てを放棄すれば、俺は後悔した人生を歩む事になるのだろう。

ほんとうにそうなのだろうか。

「お前だけいればいいよ」

「おっ?」

呟くと、バカが振り向いた。
試しに呟いてみただけなのに、そんな顔をして振り向かれたら、どう弁解したらいいか分からなくなる。

「…って、言えたらいいのにな」

何かもの淋しい気持ちを抱えながら俺はそう付け足した。

「なんだそりゃ!今言ってたじゃねぇか!俺聞いたかんな!!」

満面の笑みでバカが吠えた。

…人生にやり直しはありえない。
今俺が言った言葉も、思想も、今までの瞬間瞬間を消す事は何があっても俺には出来ない。

「だいっ嫌いだ!」

「えぇ!?」

バカが大袈裟に驚いた顔をした。

「…って言ったら、お前どうする?」

「なんだ!びっくりさせんなよ!」

やり直しがきかないから、わからなくてもやるしかない。
今の言葉も、全てを背負わなくてはいけない。

そうやって積み重なっていく人生が重くて、重くて、それで、疎ましかった。

「…またさ、なんか考えてんだろ?むっずかしいことー」

バカが俺の目を見ながら言った。
たまの休みが合ったものだから、二人で海にきていたのだ。

「俺と、一緒に、海。…これ、最高じゃね?」

バカが口から焼きそばをぼろぼろこぼしながら言った。

「俺と一緒、ぜってーたのしい!俺と一緒ならどんなこともたのしい!俺は、生きてるお前見てるだけでたのしい!お前は、生きてる俺を見てるだけでたのしい!」

バカが、箸を突き上げて楽しげに叫んだ。

「お前バカだな」


「バカじゃねぇよ!ほんとのこと!仕事も趣味も会話も海も、お前がいれば全部キラキラしてる!俺はずっと幸せで、怖いけど、怖いのも幸せ!全部が幸せ!」

バカが大声で叫んだ。


「お前は?」

ニッと笑いながら、バカが俺に聞く。

答える気はしなかった。
なぜだか自然と口元が緩んで、

ああ、なんだ、俺ってバカだな。

と、そう思った。



「…準平、バカっていいな」

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