ルチス†ラヴシンドローム
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その少女は、空虚だった。


頭には何もなくて、体にも何もない。
死んでいる訳ではなく、植物状態な訳でもない。

彼女は虚無症候群だった。



それはある日突然やってきた。

ある日を境に彼女は虚無になった。
虚無故に両極に限界が無かった。


感情というものが無かった。
欲と言うものがなかった。


ただ茫然と世界を見続けた。


彼女にあるのは五感と、それによって得られる感覚だけだった。



家族が異変に気付いたのは、直後だった。


少女は食べ物を出されたら際限無く食べた。
食欲が無いから、生命維持に必要な量がわからなかったから。

少女は食べ物を出されなかったら、いつまでも食べなかった。
食欲が無いから、生命維持のギリギリも何もわからなかったから。


何もわからなかったけれど、自分から何かを考えようとも思わなくて、ただそこに存在した。

何もわからなかったから、自分から何かをしようとも思えなくて、ただそこに存在した。



両親は彼女に白い部屋を与えた。


そして本を与えて、読めとだけ言った。



彼女は本を読み続けた。

書かれている事を、意識が無くなるまで覚え続けるだけ。

必要な食事は、必要な時間に、必要な分量だけ親が運んできた。


少女はやがて知識を得て、理解をした。

生命維持には睡眠が必要で、本を読み続けているとそのうち意識が勝手に遠退いてしまうのは睡眠をとっていないからだという事を知る。


彼女は食事三回と本を三冊おきに瞳を閉じる事にした。

少女は自らの力では目覚める事は出来なかったが

朝がくれば、両親が彼女を起こした。

そして彼女は食事を与えられ、また本を読む。




彼女はそうしてずっとそこに存在していた。

時とは、時間という概念は理解しても一秒の長さがわからない少女にとっては、
それがどんな長い時間であっても…、どんなに短い時間であっても、同じ『存在した軌跡』以外のなにものでもなかった。



そこに、彼女は存在した。
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