ヘルメス ザ タナトフォビア
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僕は、死ぬのが怖い。


誰だって『死』は怖い?


一緒にしないでくれよ。




昔の話だ。

遠い遠い、昔、
お屋敷に行った事がある。


記憶にあるのは、子供たちがいくらかいたことだけ。

大人の記憶は、無かった。


何の集まりなのか、
誰の屋敷なのか、
どこの屋敷だったのか、

思い出そうとしても
思い出せなかった。


そこにいた子供たちの中でたったの二人だけ顔を覚えているやつがいた。


一人はあいつだった。



僕は昔から、人と話すのが嫌いだった。

というか、何をするのも嫌いだった。

何を生み出しても、やがてゼロに還元される世界なら

何も意味はない。



誰と話していてもつまらなかった。



でも、彼と話していると、楽しかった。


彼は僕の、救世主の様な気がした。







そのうち、戦争が始まった。


徴兵されてからの一年間は、地獄だった。

死の匂いが尾を引く。


自らが一番恐れるものを他人に与えなくてはいけないのだ。


日々一番恐れている『死』に囲まれて生きなくてはならないのだ。


それは例えるのなら、虫嫌いが、大嫌いな虫のあふれんばかりにつまったプールの中で泳いでいる様な気分だ。


頭から抜ける様な感覚が毎日続いた。

毎日常に吐き気がした。
人知れず木陰に行っては毎晩吐いた。

死にたかった。

でもできなかった。
一番恐れているものが、死だったからだ。

生きている今があらんばかりに苦しくても、混沌としていても、体がぼろぼろになっても、心がぐちゃぐちゃになっても、死ねなかった。

毎日何かに追われていた。

そいつは死だ。


やめてくれ
やめてくれやめてくれ

もうやめてくれ!



あまりにも死が溢れて、
こころが壊れてしまった。




あの少女もこんな気分だったのだろうか

きっと僕は今あんな目をしているのだろう





『闇は…』



昏迷する意識の中
あいつの声が、聞こえた。







そこで、
僕は死のコペルニクス的転回を遂げた。



いままであんなにも底知れず渦巻いていて、獣の様で恐怖の具現だった死が

美しいベルベットの様な

漆黒の揺りかごに思えてきた。



なんて美しいんだろう

彼は。




あんなにも死臭を放っていた、底知れぬ闇たちが、たちまち僕を魅了した。

触れたい。

触れたいよ、フランク。

早く、僕を


『僕を、殺してくれ…!』






…目を開けると、そこにあったのは目の抉られた死体だけだった。


まるで今までの感覚が嘘だったかのように、死の匂いに腹が乱された。

そして、嘔吐した。

腹の中には何もないのに、嘔吐した。
血も出た。




彼がいないと駄目なんだ。


僕を、殺してくれ、

僕を殺せるのは、お前だけだ。





闇色の…



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