花を御呉れ
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御呉れ、御呉れと強請つて居ても
欲しい、欲しいと強請つて居ても
楽に此の手に入る物なら、苦労も無ければ骨も折るまい。

冬だ。雪が降つて居るのだから。
電車に乗つて、揺られて居た。想像為て居た景色は、例えば雪国の様な、其な故郷の景色だつた。
然し其な情景は毛程も無く、見えるのは只管に詰まら無い景色ばかりだつた。

外の世界も見飽きて、手元に在つた詩集を開いた。
其処に書いて在る愛だの恋だのと云ふ詩は何と退屈なのだろう。其処に共感が全く無いのだ。
愛しい事を只管に書き殴つて居るのを、親友は貪欲だの、見苦しいだの、下等だのと罵つて批評為る。
然し私は其れに嫌悪感を感じた事は無い。
寧ろ私が然う云つた詩を書く類の人間だからで有ろう。
然し其れに付けても、持つて来る詩集を間違えたな、と私は思つた。
此な、此な生命感溢れた詩集を読み乍ら、或いは手に抱き乍ら、私は死ぬのか。
其の姿の無様なのを想像為て、私は向こうに着いたら此れを捨てて遣ろうと思つた。
死ぬ時に詩集の一つでも抱いて居たなら気障かも知れ無いと、然う考えて居た自分が恥ずかしく成つた。
処で、何故此なにも恋愛の詩が在つて、皆大切なものが近くに在る幻想しか紡いで居無いのだろう。否、或いは存在為る愛に縋る人間しか此の詩を書いて居無いからかも知れ無い。
君達は下位に居て親友の云う様に貪欲に愛を求めるが、では其れを羨む様な私はもつと下等なのだろうか。
嗚呼然うだ。貪欲さを極め詩に縋る私はもつと下等では無いか。
其な私が死際に此な大逸れた物を抱えようなんて愚鈍な話だ。
熟々恥ずかしい。
何で此な日に、選りに選つて此な日に何を恥じて居るのだろう。
後三つの駅で降りると云ふのに。
何か引掛かるものが在る。其れは何だろう。

憙、一つ前の駅で思い出した。
私は、花が欲しい。
其れが後悔だ。
此な事だつたら、ちゃんと聞いて遣れば良かつたのに、と。
花を御呉れ、花を御呉れよと慕う声にも耳を貸さ無いで、到頭燃や為て埋めて仕舞つたのだ。
暗愚だろうと嗤つて御呉れ。
だから今度は忘れまいと、詩集を棄てたら花を買おう。
否、金は全部棄て遣つたのだつた。
では花を貰おう。どんなに小さくても構わ無いから、御呉れよと。

御呉れ、花を御呉れ。
出来る事なら、貴女の愛為た真赤な花を

私の棺に入れて御呉れよ。

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