ファミリーング新年会!
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「あけまして…おめでっとーう」

と、章が声を上げて功聖に飛び付いた!
あまりにも陽気すぎて、奴に尻尾が生えている様に見える位の覇気がある。
そしてその尻尾は暴れ回るが如く左右に激しく動いているのだ。

ここまでは毎回と変わらない情景だったが、新年だからだろう、今日はその後ろに見知らぬ影が1つ。

「明けおめぇ!功聖ッ!」

と威勢よく功聖の肩を殴ったのは、章の母親である。
名前は韵葉(おとは)。
夫の姓なので今は迫水(サコミズ)だが、旧姓は赤坂。
彼女は功聖の実の姉である。

1月1日。
新年という事でわたくし桜嵜奈兎は功聖にくっついて功聖の実家まで遥々やって来た!
実家のある転企(うたたき)までは新幹線で二時間ちょっと。
移動とかを諸々含めて、約四時間もかけてここまでやって来たのだ。
とんだ田舎という訳でも無いが、かといって近くに大きな建物がある訳でも無く、良い意味で閑静な、村とも町ともつかない場所である。

「あなたが奈兎ちゃんね?功聖からもそうだけど、アキちゃんからよく聞いてるわ。いつもうちのバカ息子をありがとね」

靴を脱いだら功聖の後ろにそそくさと隠れる様に控えて、そこで内心ドキドキしていたのだが、韵葉さんはそんな私に目を向けて微笑みかけてくれた。

「は、はい!…えーっと…」

「あぁ、私の事はお・ね・ぇ・さ・んでいいわよ?"おとはねぇさん!"か、"お姉さん!"で!」

韵葉さ…"韵葉ねぇさん"は楽しそうに笑って言った。
一方で章と功聖はそれを横目にあきれ顔だ…。

「はい…お、お姉さん」

私が少し恥ずかしがって言うと、韵葉ねぇさんは満足そうににんまり笑って、よしよし可愛いなぁと私の頭を撫でた。

「だいたいなぁ姉貴、もう"お姉さん"なんて年じゃねぇだろ…?」

功聖が呆れ口調で言うと、韵葉ねぇさんはキッとした顔をした。

「煩いわねぇ…あんたより若い自信あるわよふけ顔ジジキヨ!」

「うッセ!」

…とは言っているが、確かに韵葉ねぇさんは若い。
外見だけ見れば功聖の妹と言っても問題無さそうに思える。
まあそれは功聖が年齢よりも老けて見えるのにも影響されているのかもしれないが。

顔が整っている印象を与えるが、よくよく見てみると化粧が濃いと言う訳では無いらしい。
真っ赤なルージュがそんな印象を与えていたが、ルージュと睫毛以外は殆ど素の様だ。
素で整っているって素敵だなぁ…。と思わず感心してしまう。
シミもなくて張りのある肌、高い所で束ねた髪に、黒縁のキリッとした眼鏡、女性用ビジネススーツにショートでシンプルなスカートがビシッと決まっていて、オーラから何から『デキルヲンナ』を醸し出している。
一方で左耳につけたイヤリングが細やかながら全体のクラシックな空気を壊して現代風に見せている所を見ると、どうやらファッションに疎いという訳でも無いらしい。

「にしても…新年からビジネススーツかよ?」

訝しげな顔で訪ねる功聖に、韵葉ねぇさんもムサ苦しそうな顔をして答えた。

「去年もそうだったでしょ?仕事終わって直で来てるから…。後で着替えるわよ。」

「ふーん…、で、おやじは?」

「ああ、もう居間に来てるんじゃない?母さんにはもう会ったんだけど、私たちも今来たばっかでね」

「おう、んじゃ行くか…!」

私が少しぼーっとしてると、功聖が小さく"いくぞ"と言って私の手を引いた。
功聖の両親に会うのは楽しみにしていたけど、韵葉ねぇさんに会って功聖の両親に会うのが少し…怖くなった。

玄関を上がって左に曲がると、すぐ軒並みの廊下に出た。
軒から見える広い庭は手入れがされている様で、どこかの石庭の様に綺麗だ。
廊下の奥から二番目の部屋が居間になっているらしく、韵葉ねぇさんはそこの戸を引いた。

「あけましておめでとうございます、父さん。」

先程までとは打って変わって、韵葉ねぇさんは真面目で整端とした声口調で中に控えていた功聖の父上殿に挨拶をした。

「あけましておめでとう父さん母さん。」

続いて功聖。
いつもと変わらない様子で挨拶をして、部屋に入るや否や功聖は机の前にずんと座り込んだ。

「ハッピーニューイヤー!じいちゃん!会いたかったよー」

と、座るより先に父上殿に飛び付く章には驚いた。

「おいおい章、元気なのはいいがおれも年だ、勘弁してくれよ。」

と、父上殿は章の背中をぽんぽんと叩いた。
言ってはいるが、父上殿は万更でもなさそうな感じで笑っている。

紺の甚平を着こなした功聖の父上殿は正に「和」といった感じである。
荒々しく、しかし綺麗に銀光っている短髪の白髪は後ろに流してある。多分ワックスで固めているんだろう。
髪質は功聖と違って柔らかい様だが、目付きなんかは功聖にそっくりでどこか優しい感じが交じっていて、少し親近感が湧いた。

「ばあちゃんも、ハッピーニューイヤー!」

章はそのまま抱きついた父上殿越しに、斜め後ろで控えていた功聖の母上殿にも挨拶をした。
母上殿は細かく繊細そうな綺麗な髪を後ろでおだんごにして結んでいた。
白髪混じりだが、まだ黒が多く、その髪質は韵葉ねぇさんに遺伝されているんだとすぐに分かった。
黄色い着物は色の割に落ち着いた感じを醸し出していて、穏やかな表情、雰囲気の温かい人だった。

「馬鹿!『ハッピーニューイヤー』じゃなくて『あけましておめでとうございます』でしょ?あとお爺ちゃんにひっつかないの!」

と、韵葉ねぇさんが父上殿にひっついていた章の頭を思い切り殴った。
と、"ゴン!"という生々しい音が響いた。

「あらいいのよ。私たちと違って章ちゃんは現代っ子だもの。それにお父さんだって好かれて嫌な気はしてないわよ、ねぇ?」

にっこりと笑った母上殿が父上殿に向き首を傾げた。

「お、おれに振るなォ」

顔を少し赤くして、父上殿は苦そうな顔をした。


…これであと挨拶をしていないのは私だけだ。
そう思った私は、功聖の斜め後ろにちょこんと座り、父上殿と母上殿、二人の顔を伺う様にして挨拶をした。

「あ、明けましておめでとうございます!」

すると、母上殿は私に向かってにっこりと笑って、「ええ、おめでとう」と優しく返してくれた。
父上殿は無理矢理ひっついてくる章を引き剥がして私に目を向けると、遅れて口を開いた。

「嬢ちゃんが桜嵜んとこのガキかい?」

「ちょっとお父さん、奈兎ちゃんですよ。ちゃんと名前があるんですから、乱暴仰らないで下さいな」

私が"はい"と返事をする前に母上殿が隙無く父上殿に言を入れた。

「いや、乱暴仰ったつもりはねぇんだがよ…。奈兎ちゃんよ、いつもウチのバカ息子が世話になってんな」

と、母上殿の顔を伺いつつ私に送られた父上殿の言葉は、先に韵葉ねぇさんが言った言葉と同じだった。

「いえ、こちらこそ、功聖…さんにはいつも良くしてもらってます。」

「あらあら、可愛いお嫁さんだこと」

私の言葉を聞いているのか怪しい反応だが、母上殿はすぐにクスリと笑って私の顔を覗いた。

「ちょ、母さんォ」

功聖は功聖で分が悪そうだ。

「って言ってもあんたそれ自業自得よ?三十過ぎて結婚もしないでふらふら……って、あたしが言える事でも無いんだけどサ…」

韵葉ねぇさんの言葉から、場に少し冷たい空気が流れはじめる。

「…まぁ、心配してどうなる話でも無いものね。章ちゃんもいるし、お兄さんは結婚結婚なんて焦らなくてもいいわよ。」

母上殿は場の空気を払拭するかの様にやわらかな口調で言った。

「だよな!てか折角の新年なんだから、結婚の話なんかより俺は飯が喰いてーよ」

母上殿に便乗するように功聖が言った。

「そうね。お姉ちゃん、手伝って頂戴」

言葉を聞いて母上殿は立ち上がると、韵葉ねぇさんを呼んだ。

「ああ、…うん、」

と韵葉さんは生返事をして、微妙な笑顔で立ち上がった。

母上殿がそれを確認すると、二人は奥の襖から出ていった。

と、

「ぷっはー!二人が出ていって…オレの独り占めターーーーイム!!!」

いきなり章が叫ぶので、体がビクンと反応してしまった!

「っていつもならなる所なんだけど…、今年はお前もいるんだよなぁ…」

と私に視線を移す章…。

「い、いちゃ悪いのかよ」

「いや、しゃあないから、今日という日は特別に功聖さんは譲ってやるよ!」

とまぁパッと明るい表情になる章。
機嫌が良いというオーラが燦々にあふれているのだが…

「な・ぜ・な・ら…」

と意味深に言葉を続ける章にギョっとしたのは、いつもなら功聖だが今日は勿論違う。

「アイラービュー!マーイ…グランパ!」

叫んだ章はまた父上殿に飛び付き抱きついた。

「横文字はやめろ章、日本人だろ!」

「うん!愛してるぜじいちゃん」

「お、おうャ」

…正直、絶句である。
言葉もないとは正にこの事だ。

「功聖…、こいつ、誰にでもいつもこんな感じなのか…?」

「いや、昔は功聖にべったりでおれにゃ興味無しってカンジだったんだがよぉ、最近はなんでかねぇ…ャ」

どうやら私の言葉を聞いていた様で、答えたのは功聖ではなく父上殿だった。

「いやー、そりゃ本命は功聖さんだよ!…でもじいちゃんに会える時なんてあんま無いし、こういう時くらいじいちゃん優先!優先!…って今の思いっきり二股宣言だよね…。ごめんじいちゃん、二番目のオトコでもいい…?」

言うと章は、父上殿の手をぎゅっと握って、まるで捨てられた子犬の様な目で父上殿の顔をじっと見上げた。

「ああ、もう勝手にしろ…」

と目を反らして物凄い呆れ顔で父上殿が言った。

「全く、どこまでが本気でどこまでが孝行なのかねぇ…。可愛がる隙さえくれない孫ってぇのも珍しい。」

父上殿はひっつく章をまた引き剥がし、苦笑しながら言った。

と、そこで

「お待たせお待たせ!」

と言って韵葉ねぇさんが戸を開けて入ってきた。
ビジネススーツだったのが、藍色の綺麗な和服に着替えていた。
その後ろにいた母上殿と韵葉ねぇさんは盆に乗せて持ってきた食器を机に並べた。

黒豆がつまった小皿に、大きな寿司の皿、だし巻き卵、昆布、御節料理の他にも色々用意してくれたらしい。

母上殿は長机の端、内廊下側、つまり功聖の右前、父上殿の左前に腰を下ろした。
韵葉ねぇさんは反対、軒側に座る。
章は今のまま、父上殿の隣、韵葉ねぇさんの左前に座ったままだ。

「はい、それじゃあ皆でご飯にしましょうか!」

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