人間のお医者さん
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夢は、カウンセラーだった。
親友はたったの一人だった。

友達がいたかは分からない。
友達かどうかに基準はないだろうが、俺の基準はお互いがどう思っているかだったから、俺は友達だと思っていても向こうは違ったかもしれないし、逆に向こうは友達だと思ってくれていても、俺はそうじゃなかったかもしれない

何より、生きている人間に関わるよりも、死人に興味があった。
何で彼らが死んだのか、何で彼らは死ななければならなかったのか。
何で人は死ぬのか。
それが全てだった。
それしか無いと思っていたのに、今目の前に広がっているのは親友の事。
それが全てに変わった。

彼女は、特に幼なじみという訳では無かった。
気が合う訳でも、趣味が合う訳でも無かった。
ただ気付けば横に居た。
俺から求めた訳では無かった。
彼女が好いてくれたのかと思うと、悪い気はしなかった。
当時はそれ位にしか思っていなかったが、今考えると、嬉しかったのかもしれない。

彼女の存在が当たり前になってくると、次第に彼女が疎ましくなった。
彼女の顔を見るのが苦しいと思う程まで行った。
落ち込んでいた日があって、そこから付け入られて心に侵入されるのが嫌になった。
そして突き放した事もあった。
当時は自分が被害者だとばかり思っていたが、彼女を傷付けたのは他でもない、俺だった。

彼女がいない生活は意外と退屈だった。
そして、まだ優しくしてくれる彼女に甘えた。
反面、以前よりも砕けた彼女は、俺の生活に次第に染み込んでいった。
彼女は俺の幸運の星だった。
彼女の言うことはいつも俺のよしとしない所にあって、彼女はいつも俺と違えた。
同時に、彼女はいつも俺と共にあり、彼女は俺のよしとする所にあった。

今思えば、それは傲慢だとしか言い様が無い。
彼女について言及しようとしている行為自体が強欲の化身の様だ。
愚かだろう、俺は可愛そうだろう。
彼女を親友だと思う事はとんだ奢りだ。甚だしい。
そう口で言ってもこれが真実だと確信している、この純粋は虚飾ではない。純情だ。だがその純潔は潔癖症かもしれない。
いや、この潔癖の病こそが奢りそのものだろう。
だとしたら俺は奢りを讃え掲げて生き続ける事になる。
善悪じゃない。それしか無いからだ。
それが俺の生きる意味だからだ。
それが全てだからだ。

彼女と図書館に行った帰りだった。
一緒に帰ろうとすると、彼女は俺に違う道を勧めた。
そっちの方が時間もかからないし、金もかからなかった。
少し迷って、そうした。

その帰りに、彼女は飛んだ。

彼女の携帯からメールが届いたとき、不思議な気持ちになった。
返信はしたが帰ってこなかった。
それが気に掛かっていたが、まさか次の日、彼女の死が知らされるなんて思っても見なかった。暫く頭が追い付かなかった。笑えない冗談だと思った。
彼女のメールを見直した。
涙が止まらなかった。
前日の行動を一つ残らず悔いた。

そしてそこでやっと気付く、彼女は親友だった。
それ以上にすら思っていたかもしれない。
件の後も1ヶ月以上は心のどこかで彼女が生きているものだと当たり前の様に思っていた。
それを過ぎたら、次第に俺は病んでいった。
彼女を探した。彼女の人生を探した。彼女の存在を探した。彼女の心を探した。
やがて俺は、俺が俺の全てを彼女に語っていないのと同じで、彼女も彼女の全てを俺に話していた訳ではなかったという事に気付いた。
あたり前の様に、彼女の面影を辿ると、彼女は別人へと変貌していった。

彼女が飛んだのはプラットホームだった。
公共機関に影響を与える死に方は家族に迷惑がかかるので家族に恨みを持つ人がすると言う。
だから彼女の家族をあたったのだが、彼女に家族はなかった。彼女は可愛そうな女の子だった。
彼女の足跡を辿る毎に胸が苦しくなって、涙が溢れてきた。
生きている人間に興味は無かった筈なのに、彼女が生きていようが死んでいようが、きっと俺は泣いてしまっていた。彼女の口から聞いていたなら尚更だったろう。

彼女の家族に会った。
彼女の友達に会った。
一番近い所に居た人は、俺だ。そうであってほしい。そうしてまた傲慢さに気付く。

そうして最終的に、俺は彼女の思い通りになった。
最期にふっと浮かんだ。
難しく考えなくても分かった。
人間はアナログな生きものだ。計算式じゃない。算数でも数学でもない。

彼女の死んだ理由は、そう、飛び立つ為だった。

最後に彼女の詩の一節を口吟んで終わりにしたいと思う。
最後のメールにも載っていたものだった。
それは素敵な詩だ。くるしく、にがく、美しい程に彼女の心を表している。
これを口吟もう。

†人間のお医者さんは人間しか見てくれないのよ。
†鳥はどうしても人間にはなれないわ。
†このまま隣で果てるより、私は夢を見ていたい。
†夢の中では人間になれるのよ。
†そして貴方はきっと私を見るわ。

‡他の何も、目に移らないように。

†茨の揺り籠で眠りましょう。
†もどれぬそらへ、翼を広げて。

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