ZOOな1日☆
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春の空…
今日は気持ちがいい日だ。
吹く風は爽やかで、春の淡くて暖かい匂いを鼻に運んでくる。

いつもと同じ下校コースでも、よくよく見てみれば気付く事もある。

例えば…
…そうだなぁ、
街路樹の桜は早々と散って、もう葉桜になっている。

空を見上げてみれば、一面が真っ青で目がくすぐったくなってくる。

こんな所なんかに気を配ってみるのなんて初めてだ。

だが、これもまた興があるな…
と、そんな事をぼうっと考えつつ、ふっと目を伏せてみた。


そこでふと、

「あきらくん」


と後方から聞き覚えのある声が聞こえた。

程よく透き通っていて、春の…今の雰囲気にぴったりな声だ。


俺は

「ん?」

と一言。

振り返ると、そこにいたのはやっぱり島だった。

…島は、俺と同じクラスの女子だ。
二年生で文理が別れてから一緒のクラスになった。

下の名前は紗夜花という。

すごく仲がいいって訳でもないが、全然話さないというほどでもない。
今みたいに、島から声をかけてくれる事が時々ある。

口数が多いという訳でもなければ、話下手という訳でもない。

優しくて大人しくて…でも時々突拍子もない事をする。
そんな子だ。

それと、話し掛けてくれるのは俺にだけじゃない。

男女別け隔てなく、誰とでも仲良くしている様な子だった。


…俺は、同じクラスで4人、島に好意を持っている男子がいるのを知っている。

当たり前といえば当たり前かもしれないけど。


「あきらくん、この後予定ある?」

島が長い髪を風に少しなびかせながら言った。
触らなくても、風に踊る髪を見るだけで手入れが行き届いている事が分かる。

なびいた髪は柔らかそうにふわりと宙に浮き、その後さらさらと一本ずつ整列する様に背中へと流れていく。

思わず手を伸ばしそうになった。

「…あきらくん?」

と声をかけられて、ハッと我に返った。

「あ…ああ、暇だけど…」


俺が出しかけていた手を引っ込めると、島はその裾を引っ張ってニコッと笑った。

「じゃあ、動物園、行こう?」


…唐突だった。
あまりにも。
だから、この後功聖さんの所に行こうとか、そんな風に思っていたのも忘れて

「ああ」

と返事をしてしまった。


…まぁ、たまには功聖さん離れして、クラスの奴らと絡むのもいいかもしれない。

特に今日は、功聖さんにもなっちゃんにも行かないと言ってしまった日だし。


というのも、今日は学校で予定があって、2日間どっかへ行く予定だったから…なのだが、

実際は学校の伝達ミスで、今日出発するのは前半クラスだけ。

島と俺のいる後半クラスは、ずらして二日後に出発する予定だった。

しかも今日は平常授業より早く授業が終わって、とても暇…なのだ。

「で、誰が行くんだ?動物園。」

俺は小さく笑う。

動物園なんて言葉を口にしたのは何年ぶりだろうか、
まさかこの年になって行くことになるとは思っていなかった。

ここらで動物園と言ったら、青北川動物園だけだと思う。
青北川なら昔、誰かと行った記憶があった。
家族で無いのは確かだ。
多分友達か誰かだと思うが…
一回だけ、行った記憶があって、

…動物園なんて言ったら、それっきりだ。


「二人で!」


…また、唐突だった。


…島は一体、何回俺の意表をつけば気が済むのだろう…

島は身を屈めて、俺を覗き込むような態勢をして笑いかけてくれている。

俺がびっくりして言葉に詰まっていると、島は眉尻を下げて首を傾げてみせた。


「…いいけど…」


…俺がそう小さく言うと、
島は

「やった!」

…と小さく言って、可愛らしくガッツポーズをしてみせた。

それから島は、俺の右手をギュッと握った。

「早くいこっ!」

「お…おう。」

…完全に島のペースに乗せられていた。

ここまで他人に振り回されるのも何年ぶりだろう。
逆に、いつもは俺が功聖さんたちにこんなふうに絡むもんだ。

でも、たまにはこんなふうに誰かに手を引っ張られるのも、悪い気はしない。


…今日は悪い気がしない。
久しぶりに面白い事がありそうな予感がする。

そんな風に思ってたら、自然と口元が緩んだ。

自分で気付いて、少し恥ずかしくなった。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






電車に揺られて、乗り換えの手間もなく、さっと動物園に来れた。

人はそれなりにいる。

だけど、平日という事もあって、ある程度空いている方だと思う。


「あっちにロッカー貸してくれる所があるから、荷物置いちゃおう?」

島が指を差して言った。


俺と島は今日から2日間、学校行事でどっかに行くもんだと思ってた位だ。
着替えとかも含めて、それなりの荷物を持っている。

それを貸しロッカーに詰めると、それだけで小さかったロッカーはパンパンになった。

俺は学校に置きっぱなしにしとくつもりで、普通に鞄も持ってきていたのだが、…それは入りそうにない。
しょうがないので、手で持っていく事にした。


…園内はざわついていた。

やはり子供連れの親子が多い。


子供は嫌いだが、今日は特に嫌な気はしない。


「あっ…」

隣で島が声を出した。


「ん?」

と尋ねると、島は小さく指を差した。


「あの子…一人だけど…迷子かしら?」


俺は島の指の先を見た…。


すると…


「あ…」








◆◆◆◆◆◆◆◆◆





僕の名前は泰知!

桜嵜家の正式な後継者となった僕は、立派なジェントルマンになるべく、日々、実父・桜嵜龍哦の下で厳しい指導を施されているのさ!!


え、

なんでこんな所に1人でいるのかって…?


うん…
それには…
…僕の実姉、桜嵜奈兎が深く深く関わってくるんだ…!


事の発端は1週間ほど前だった…
4月7日…






「一体何の用だ?私をわざわざ呼び出して」

と、姉さんが家にやってきた。

姉さんを呼んだのは父だ。
勿論理由はちゃんとある。
ただ、父は多忙なので代わりに僕が仕切る事になるのだが…


「姉さん、来週は誕生日だよ?ってことは、ちゃんと分かってますよね?」

と言って、僕は姉さんに資料を渡した。

「今年のパーティーは日本で行う事にしましたから、場所はいつものホールを貸し切りにしてやることになりました。中身はサプライズだけど、今年の参加者は各業界の社長さんを始めとしたVIPが例年に比べて沢山きますから、挨拶は絶対に…」

「泰知…、残念だけどこの日は先約がある。という訳で、じゃあな!」

と、僕の説明をぶったぎるだけだけぶったぎって、姉さんは踵を返そうとする。

「ちょ!ちょっと待ってよ姉さん!」

急いで姉さんを引き止めると嫌な顔をされた。

「先約って…どうせあのおじさんでしょ?」

僕が問うと、姉さんは怪訝そうな顔をして答えた。

「そんなのは関係ないだろう…」

「関係あるよ!なんでまだあんな男のとこにいるのさ…。後継権争いが終わったって…別に絶縁したわけじゃない…。ここは姉さんの家だ…。帰ってきたら、あんなとこにいるよりももっといい暮らしができる!」

僕はつらつらと言葉を並べて凄むが、姉さんは呆れ顔で全く動じていなかった…。

「…お金があって贅沢してたら、それが一番の幸せなのか…?」

そう、姉さんが重い口調で言った。
僕は、何も言い返せなかった…。
変な感じだ…いつもだったら直ぐに胸を張って返せる言葉だ。
…だけど、何故だか今は何かが咽を貫いて引っ掛かっている感覚がして言葉が出なかった…。

そうこうしている間にも、姉さんはもう扉の前まで行ってしまっていた。

どうにかして引き止めなければ…
そう思って、やっとの思いで口にしたのは…
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